自然が心身に及ぼす効果の検証

 1980年代、建築家でもあった心理学者、ロジャー・ウルリッヒは、「なぜドライバーは遠回りになっても、わざわざ並木のある車道を走りたがるのか」疑問に思った。実験を行った結果、自然の風景のスライドを見せると、無機質なビルが並ぶ都会の風景を見せた場合に比べ、 リラックスを示すアルファ波が増加すること見出した。自然の風景は、ストレスからの回復に役立つことを示したわけである。
 現在では、自然の中で行う散歩が心身に様々な良い影響を与えることが確かめられている。感情調節機能について研究するジェームズ・グロスは、都会の中を歩いた参加者に比べ、自然の中を歩いた参加者は、記憶力や注意力が向上し、悲観的な思考を行う際活性化する、膝下前頭前野の血流が大きく減少することを見出した。日本の生理人類学者である宮崎良文は、森の中をゆっくり散策すると、都会を歩いている時に比べストレスホルモンであるコルチゾールが16%下がることを見出した。その他、交感神経活動や心拍数、血圧をも下げる効果が認められた。質問紙調査では、気分が良くなり不安感が軽減するという。環境医学を研究する免疫学者である李卿は、東京在住のビジネスマンを森に連れて行き、 2~4時間程度の ハイキングを3日間行ったところ、NK細胞(ナチュラルキラー細胞:がんの発生予防、細菌およびウイルス感染予防に大きな役割をはたす白血球の一種)活性が40%増加し、その効果が七日間持続することを見出した。このように、自然の中で過ごすことは、心身に様々な健康増進効果をもたらすことが、科学的な手法により確かめられている。
(フローレンス・ウィリアムス著、 栗木さつき・森崎マリ訳 「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる 最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方」より抜粋、一部加筆)

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