生理心理学特殊研究-13

レポート課題について
 高次脳機能障害に関するレポート作成課題では、主要な症状の内どれか一つにターゲットを絞り、文献を読んでいただきました。皆さんが今回選んだテーマは、実行機能障害、注意障害、失語症の3つでした。
 実行機能障害や注意障害は、通常生活を送っている我々にとっても無縁ではなく、その症候に関しても「まったく心当たりがない」と思う人は、むしろ少数ではないかと思います。「ここからが障害」といった基準が不明確で、多くの人が「やる気が出ない」、「集中できない」、「ある種の作業が非常に苦手」などの症状に悩まされているわけで、障害の原因や有効な対処法の理解は、一般人にも多くの利益があると思います。一方、失語症は、レポートにも書いてくださったとおり、すごく多くの分類があり、一口に失語症と言っても、聴覚的理解、読解、発話、書字などのうち、どのような言語機能の障害かによって細分化するようです。その全貌を、患者に触れること無く理解しようという試みは、なかなかに困難を伴うように思えます。
 とはいえ、将来臨床に出る方も出ない方も、高齢化が急速に進んでいく日本社会では、病院で、路上で、あるいは家庭で、高次脳機能障害を持つ方々遭遇する機会は、必然的に増えていきます。考えてみれば当然ですが、多くの人々は、このような障害により、仕事をなくしたり、周りに理解されないなど、社会的な孤立を味わっています(と本に書いてありました!)。心理学を学んだ我々は、困難を乗り越え社会に適応しようと頑張る人々に、対話を通して心情的に寄り添うところからスタートすれば良いのではないかと思います。

まとめと振り返り
 この授業には、1.感情の背景となる身体機能の理解、2.高次脳機能障害の理解、3.ストレスマネジメントに役立つ知識の獲得、という3本の柱がありました。1と2に関しては、公認心理師資格を目指す方は、試験に出るので、ある程度の内容を、整理して頭に入れておく必要があります。苦手意識がある方は、試験対策の参考書籍があるので、早めに入手して、今のうちから興味を持って調べておく事をおすすめします。独自にノートを作ったり、勉強会を開いたりする事も良いと思います。
 3のストレスマネジメントに関しては、私も含め4人がストレス関連の文献をまとめ、共有しました。急性ストレス刺激を用いた実験的研究において用いる課題や、ストレスを測るための指標にはどのようなものがあるのか、知識が深まったと思います。指標としては、やはり主観的指標、つまり質問紙が多彩であり、GHQやPOMSをはじめ、用途に応じた様々なものが紹介されました。客観的な指標としては、自律神経系指標、内分泌系、免疫計の指標などが紹介されました。自律神経系指標が瞬時的に反応が生じるのにくらべ、内分泌系や免疫系指標は反応潜時が長く、分析コストが高い傾向にあります。一方で、慢性ストレスを調べるには内分泌系や免疫系指標の方が適しています。ストレスマネジメントに関しては、バイオフィードバックや各種のリラクセーション(自律訓練法や漸進的筋弛緩法)の紹介が行われました。これらの手法は、独自の学術的背景を持ち、いずれも特定の身体機能の自己制御を目的としています。つまり、リラクセーション、ストレスマネジメントといったテーマの本質は、結局のところ自己制御であることを意味しています。意外に思うかもしれませんが、自己制御の基本は、「測定」です。何を測定するのか?生理指標も、なんなら感情も、人間の行動の一部と言えましょう。つまり、これらの心理療法は、体系的には実は「行動療法」に属しています。
 この授業では、全員が作成したレポートを共有しますが、今後も各種心理療法の授業や学会参加等を通し、行動療法的なアプローチに関する理解を深めていっていただければ幸いです。

追加課題について
 休講となっていた2回ぶんに関し、追加課題を行います。以前ディスカッションにおいて指摘した点(特に引用の件は重要)に関し、各自のレポートを改善し、「心理学特殊研究チーム>授業0805>ファイル>ストレスマネジメントに関するレポート」フォルダに入れておいてください。その際、論文等に引用できるよう、引用文献リストを作成するようにしてください。これらの作業をもって、本授業の追加課題とします。